NFB(ネガティブフィードバック)回路とは、オーディオアンプでは性能向上のために使われている技術です。
使用する理由は、
等、性能を追求すると無くてはならない回路方式です。
ここでは、アンプ出力段から初段にフィードバックする、通称オーバーオールNFBの基本構造について説明します。
注)
M-01は電圧増幅段~初段にかけてのフィードバック方式を採用しており、回路図は本文の説明と異なりますので予めお断りしておきます。
下図は、NFB用の回路として一般的な差動増幅回路になります。
回路は、入力段にJ-FET、電圧増幅段と出力段にバイポーラトランジスタを使用しており、本ページはこの回路図を前提にまとめています。
回路図は説明のために省略した図になります。
出力部から入力段のトランジスタへ信号を返す回路。負帰還回路とも言います。
本来は、その先にあるトランジスタや、周辺を含めてフィードバック回路といいますが、ここでは説明し易い様に配線までとします。
外部からの信号を受けるトランジスタ(左)とフィードバック信号を受けるトランジスタ(右)で構成されます。
信号レベル(交流電圧)を増幅するステージ。
信号(交流電圧)増幅はここで完了しますが、このままでは負荷を接続すると供給電流が足りないため電圧が下がってしまいます。
通常次段で電流を補います。
※トランジスタのベース~エミッタと並列に置いてあるコンデンサは位相補償(高域カット)用で、NFBとは直接関係ありません。
負荷に見合った電流を補うステージ。
ここでは電圧は増幅しません(この回路では電圧増幅出来ません)。
スピーカーやイヤホンは、100W電球よりも電気が流れ易いので、電圧降下を最小にする為に電流を供給します。
この部分が差動増幅回路です。ふたつのトランジスタの下流側が合流しているところが特徴です。
合流部(ピンク丸)の下にある抵抗で電流を絞る(制限する)事で、c = a + b の関係が成り立ちます。
a:入力側のトランジスタ(左)に流れる電流
b:フィードバック側のトランジスタ(右)に流れる電流
c:抵抗で制限された電流
bの信号レベルが低いと右のトランジスタに流れる電流が減るので、相対的に左のトランジスタに流れる電流が増えます。
同時に左のトランジスタの上流にある抵抗に流れる電流も増えるので、次段へ渡す電圧が高くなります。
例えば負荷が重くて出力電圧が下がった場合、右のトランジスタに入る電圧が下がるためbの電流が減ります。
相対的にaの電流が増えるため、次段へ渡す電圧が上がり、結果出力電圧が回復します。
これがNFB回路を入れると出力インピーダンスが下がる仕組みです。
出力に高調波が発生した時は上記とは逆に作用します。これがNFB回路を入れるとひずみ率が下がる仕組みです。
こちらもご覧ください ▶オームの法則
信号レベルを出力信号+α(α = フィードバック信号レベル)まで増幅します。
負荷を接続すると電流が流れ電圧降下します。負荷に対し電流供給能力が少なければ電圧は最悪0Vまで下がってしまいます。それを防ぐために電流供給します。
回路図のオレンジ色の矢印は、上流にあるトランジスタからの電流を示します。
上のトランジスタは+○Vを中心に信号が振幅し、下のトランジスタはー○Vを中心に信号が振幅しています。
上下のトランジスタからの信号が合流した時に±0Vになる様に設計します。
出力信号を±0Vを中心に振幅する様に設計しても、トランジスタや抵抗等の特性が設計通りでないと電圧は+かーに片寄ります。
この現象はDCオフセットと呼ばれ、ヘッドホンやスピーカーを破損させる原因になります。
入力段のピンクの丸部の両脇に可変抵抗を設置し、入力段左右のトランジスタに流れる電流配分を調整する事でDCオフセットをゼロに調整します。
図は電圧増幅段までフィードバック回路のM-01(青)とオーバーオールNFB回路のアンプ(赤)のひずみ率を比較したものです。
オーバーオールNFB回路のアンプはM-01開発初期のものになります。
最終的にM-01は全く違う回路になりましたので、正確なNFBの比較とは言えませんが、参考としてご紹介いたします。
図を簡単に説明しますと、グラフの右下がりの部分はTHD+NのN(ノイズ)を測定してしまっている部分で、NFB有無に差はありません。
オーバーオールNFB回路のアンプのグラフが鋭角なのは、限界までフィードバックが効いている証明です。この時は振幅が電源電圧レベルに達し、ひずみ率が悪化した事が原因でした。
±6V電源で測定していたのですが、これを±15V程度に変えればもっと底の深いグラフになったと思います。
正確な比較になっていませんが、ひずみ率はNFB回路のアンプの方が1~2桁良いです。
こちらもご覧ください ▶歪率(THD+N)
回路図のオレンジの矢印部の抵抗は同じ値のものを使用しているのですが、出力インピーダンスは全く違う値になりました。
これがフィードバック効果です。
入力段左右のトランジスタに流れる電流配分が大きく狂うと、ピンクの丸部左右の配分を変える可変抵抗の調整範囲に収まらなくなります。
それを防止するために、入力段左右のトランジスタは特性の近いものを選別しペアにします。
こちらもご覧ください ▶トランジスタの選別ペアマッチング
オーバーオールNFBの効果は絶大で、ボロボロの信号波形でもフィードバックを掛ければ綺麗な波形が簡単に得られます。
M-01の開発時の経験では、過度にフィードバックを利かせると音が濁りました。
音に影響を与えないためには素性の良い信号が必要で、それが出来るとヘッドホンアンプの出力ならオーバーオールNFBにしなくても大丈夫と判断したため、M-01は回路の断捨離と併せてオーバーオールNFBは採用せず、電圧増幅段~初段にかけてのフィードバック方式を採用しています。